通常であれば、引越しに関するすべてを引越しするあなた自身が決めます。あなたの好みで部屋を選び、引越し業者を価格だけでなく品質で選ぶことが可能です。
これに対して生活保護の受給者だと、生活のすべてにさまざまな制限があります。引越しに関しても、生活保護を受けている人はあなたの意思で自由に決めることはできません。
ただ生活保護受給者であっても、条件を満たせば引越しが可能です。また、引越し理由によっては引越し費用を扶助してもらうこともできます。
そこで、ここでは生活保護を受給している人の引越し方法について解説していきます。
生活保護で引越すためには、条件を満たす必要がある
生活保護を受けている人は、国の支援(=税金)によって日々の生活を送っている状態です。そのため生活保護の受給者は「生活していくのに不要なこと」ができません。
例えば生活保護受給者の贅沢を防ぐため、ケースワーカーと呼ばれる役所の職員が定期的に生活保護受給者の家へ訪問し、生活の状況や生活保護費の適正使用などをチェックしています。
ただ一方で「生活をしていく上で必要である」と認められた場合、普段の生活費以外であっても経済的な扶助を受けることができます。そのため生活保護の受給者であっても、やむを得ない事情の引越しであれば国からの扶助を受けて引越すことが可能です。
具体的には「何らかの事情で現在の部屋に住めなくなった」「家賃が上限をオーバーしているため、ケースワーカーから引越しを指示された」「世帯人数に対して部屋が著しく狭い」などの場合、引越しにかかる費用を国に負担してもらうことができます。
このとき「住居が無くなる・無くなった」など明らかに引越しが必要なケースであれば確実に引越しが認められますが、基本的にはケースワーカーが個別に事情を判断することになります。そのため引越しを希望する生活保護の受給者は、事前にケースワーカーと相談する必要があります。
自腹であれば自由に引越しできるが、生活保護を打ち切られるリスクがある
ただ当然ながら、前述したような「ケースワーカーが認める止むを得ない事情」でなくても引越ししたくなるケースは多いです。職場・作業所が少し遠かったり荷物が増えて部屋が手狭になったりした場合、引越したいと感じることでしょう。周辺住民による騒音などが理由の人もいるかもしれません。
それでは、生活保護受給者であっても引越し費用を自腹負担すれば自由に引越し可能なのでしょうか? 結論からいうと生活保護を受給していても、引越し費用を自分で負担すれば特別な事情がなくても引越し可能です。
ただ、基本的に引越しには多額の費用がかかります。生活保護費は「地域で最低限度の生活を送れる」とされる額しか支給されません。また原則的に生活保護の受給者は貯金が許されていません。そのため、生活保護の受給者が引越し費用を工面するのは難しいでしょう。
さらに引越し費用を何とか工面できたとしても、自腹で引越しをすると生活保護が打ち切られるリスクがあります。「引越しできるだけの経済力がある(=生活保護が必要ない)」とみなされやすいためです。
それではお金を借りればいいのかというと、そういうわけではありません。生活保護受給下では「借金=収入」と見なされます。そのため引越し費用を借りると、借りた分の金額が引かれた生活保護費しか支給されません。例えば毎月15万円受け取っている人が10万円の借金をして引越すと、翌月~翌々月に支給される生活保護費が5万円となるのです。
そして当然ながら、ケースワーカーに隠れて引越しを実行することはできません。ケースワーカーへの相談なしに引越しをすると、生活保護を打ち切られる可能性が非常に高いです。
このようなことから生活保護受給者が特別な事情なく引越しをすると、生活保護を打ち切られる可能性が高いことを覚悟する必要があります。
・少額の貯金なら引越しが可能
なお生活保護受給下であっても、少額の貯金であれば可能です。基本的には、毎月支給されている生活保護費6ヶ月分を超えなければ不問とされるケースが多いです。
そのため生活保護を受けていても、家賃の安い物件への格安引越しであれば、自腹で引越ししても生活保護を打ち切られるリスクは低いです。もちろんこの場合であっても、ケースワーカーへの事前相談は欠かさずに行いましょう。
県外への引越しでは、生活保護が外れる可能性がある
なお、生活保護に関する業務は自治体ごとの管轄です。そのため生活保護を受けている人が他の自治体へ引越す場合、所定の手続きが必要となります。
このとき、やむを得ない事情で県外へ引越す場合、引越し先の自治体でも生活保護を受給できるのが基本です。ケースワーカーが引越し先地域のケースワーカーと連携し、生活保護の移管手続きを行います。移管手続きが実行されると、生活保護を途切れずに受給することができます。
ただ引越し前に担当していたケースワーカーが「やむを得ない引越しである」と認めていても、引越し先のケースワーカーが移管を受け入れないケースは多いのが実態です。
引越し先の自治体からしてみれば、自治体内に住む生活保護の受給者が増えると財政が圧迫されることになります。そのため、生活保護世帯を増やしたがらない自治体が多いのです。場合によっては、障がい者手帳を持っていても移管手続きが認められないケースがあります。
自己都合による県外引越しだと、新たに生活保護申請が必要
また自己都合による県外への引越しだと、ケースワーカーは基本的に生活保護の移管手続きを行いません。そのため引越し前に生活保護の廃止手続きを自分で行い、引越し後の自治体で生活保護の申請をする必要があります。
このとき、生活保護申請の通りやすさには地域差があるのが実態です。また前述のように、基本的にはどの自治体も生活保護の受給者が増えることを嫌がります。
そのため引越し先の地域によっては、それまで生活保護を受けていた人でも申請が下りないことを覚悟しましょう。特に障がい者手帳を保有しない病気・ケガのケースや、障がいの度合いが軽い場合、生活保護受給の審査が厳しめになりやすいです。
また生活保護の申請には住民登録が必要であるため、引越し先での申請は住民票を移した後でなければできません。このとき生活保護の許可が下りないと、当面の生活費を自力で工面しなくてはなりません。
さらに生活保護が下りるまでの生活費を工面するために親・親戚などの部屋へ引越すと、生活保護申請が通りにくくなります。一時的でも親・親戚の家に住むと、「扶養能力のある家族がいる(=生活保護が必要ない)」と見なされやすくなるためです。
そのため自己都合で地方自治体外へ引越すと、生活保護の受給を継続できないことを覚悟する必要があります。
生活保護受給者に発生する引越し費用
前述のように、生活保護の受給者は「やむを得ない事情による引越しである」と認められる場合、引越し費用の自己負担なしで引越しが可能です。ただ、引越し先をあなたの希望だけで自由に選べるわけではありません。生活保護の受給者は、家賃が扶助金額内の物件へ引越す必要があります。
住宅扶助の金額は地域によって異なりますが、基本的に「新しく便利な物件」には住めない金額しか支給されません。そのため生活保護を受けている人の引越し先は、築年数が古い家や狭い家、駅から距離がある家などになります。
このとき、少額であれば扶助金額を超える家賃の部屋へ引越すことも可能です。この場合、扶助上限額を超えた分は自己負担となります。
ただ、扶助金額を大幅に超える家賃の部屋への引越しは認められません。また自己負担を覚悟したとしても、家賃の高い家に引越すと「経済力がある」と見なされて生活保護が打ち切りになる可能性があるため注意しましょう。
基本的に引越し時の初期費用は負担なし
なお詳細は自治体によって異なりますが、ケースワーカーに引越しが必要と認められた場合、引越しに必要な費用のほとんどは扶助を受けることが可能です。具体的には、以下の引越し費用であれば扶助を受けられます。
- 物件契約時の敷金礼金
- 前家賃
- 仲介手数料
- 保証金
- 火災保険料
- 保証会社の保証料金(保証会社を使わないと引越しできない場合)
- 引越し費用
これらのうち、物件の契約にかかる費用は「住宅扶助の上限額(家賃の上限)の3.9倍の金額内」までとなっており、実費で支給されます。また、引越し業者の利用費用は全額扶助されます。
このとき、引越しにかかる費用の支給は後払いが原則です。ただケースワーカーに相談すれば、一時金という名目で支給を受けることができます。
引越しのために一時金を支給してもらうためには、金額が確定した書類(請求書や契約書など)が必要となります。また引越し後に一時扶助金が余った場合、返還しなければならないことを覚えておきましょう。
さらに大家や引越し業者などから委任状をもらえば、自治体から大家・引越し業者へ直接費用を支払ってもらうことも可能です。
・二回目での引越しでも初期費用の扶助は出る?
なお中には、生活保護下での引越しが初めてではない人もいるでしょう。このような場合、「2回目の引越しだから、引越し費用が支給されないのではないか」と不安になるケースが多いです。
ただ結論からいうと、ケースワーカーが必要だと認めた引越しであれば引越し回数に関わらず引越し費用の扶助を受けることが可能です。初めての引越しのときと同じように、相談・手続きを進めましょう。
ただ当然ながら、生活保護を受給している人は何度も引越すことはできません。頻繁な引越しはケースワーカーに認められないですし、ケースワーカーが認めなければ引越し費用は出ません。
そのため「正当な理由があれば複数回の引越しでも費用が出る」からといって、軽い気持ちで引越ししたり適当に引越し先を選んだりしないようにしましょう。
原状回復の退去費用は自腹となる
なお引越しにかかる初期費用は扶助されるのに対して、退去費用は支給されないので注意が必要です。
基本的に、退去費用には入居時に支払った敷金が当てられます。敷金を超える範囲での原状回復が必要となった際、クリーニング費などの項目で退去費用が請求されます。
このとき敷金の範囲を超えるほど原状回復費用が必要ということは、「借主が常識の範囲外で部屋を汚した」ということを意味します。そのため敷金を超えて請求される退去費用は借主の責任ということになり、扶助の対象とはなりません。そのため生活保護の受給者が引越す際に請求された退去費用は、受給者本人が負担することになります。
ただ中には、本来であれば借主(大家)があなたに対して、負担する必要のないクリーニング費用を退去費用として請求しているケースがあります。そのため退去時に退去費用を請求されたら、まず請求内容が妥当かをしっかり見極めることが大切です。
その上で、一度に支払えない金額の退去費用を請求されたら、分割払いを提案しましょう。
一般的に退去費用の分割払いは踏み倒しされるリスクが高いため、拒否する大家・保証会社が多いですが、生活保護の受給者であれば応じてもらえるケースが多いです。生活保護の受給者は毎月安定した収入(保護費)があり、役所によって住所を管理されているためです。
また大家や保証会社などは「生活保護の受給者は原則貯金ができない」ということを知っています。そのため「退去費用を一括で払えるお金を持ち合わせていないが、毎月きちんと支払う」という誠意を見せれば、退去費用の分割払いに応じてもらうことが可能です。
引越しによる家電の買い替え費用は出るのか?
なお、引越して間取りが変わると、大型家電がすっきり入らなくなるケースは多いです。そのため一般的な引越しでは、引越しを機に家電を買い替えるケースが多いです。
このとき一時扶助金の該当項目の中には、家電の購入があります。そのため引越し時の家電買い替えで一時扶助金を受給できると思っている人は多いです。
ただ実際には、一時扶助の対象となる家電の購入は該当する家電が使えなくなった場合のみです。そのため生活保護の受給者が引越しを機に家電を買う場合、基本的には自費負担となります。
しかし例外的に、エアコンの購入・設置費用は一時扶助として認められるのが基本です。日本のほとんどの地域では、夏にエアコンがないと命を落とすリスクがあるためです(特に高齢者)。
他の家電と異なり、エアコンは引越し時に新居への持ち出しが難しい家電です。エアコンの撤去を専用の業者に頼まなければならないですし、年式が落ちると効率も大きく落ちます。
そのためエアコンであれば、引越し時の生活必需品として一時扶助が受けられるケースが多いです。要は、家電の状況や種類によって扶助内容が変わります。
生活保護受給者の引越し手続き
それでは、実際に生活保護の受給者が引越す際にはどのような手順を踏めばいいのでしょうか。
いかなる理由による引越しであっても、まずはケースワーカーに相談する必要があります。前述のように、ケースワーカーに相談せずに引越しすると生活保護が打ち切られるリスクが高いためです。
ケースワーカーに引越しの相談をすると、その後の手続きや扶助の受給条件、一時金の受け取り方法などについて指導を受けることができます。国による扶助を受けて引越しする場合、ケースワーカーの指示通りに動きましょう。
また自己都合で自治体外に引越すのであれば、旧居地域での生活保護廃止手続きを忘れずに行いましょう。廃止手続きを忘れてしまうと、新居地域での生活保護申請手続きが遅れ、受給のタイミングが遅くなるので注意が必要です。
不動産業者を利用し、生活保護でも居住可の物件を探す
前述のように、生活保護を受給している人は原則的に家賃が住宅扶助内に収まる住宅に住む必要があります。そのため引越しが決まったら、まずは家賃が扶助上限に収まる物件を探すことになります。
このとき中には、生活保護を受給している人の居住を断っている物件があります。生活保護は国が用意している国民のためのセーフティネットですが、一般的に生活保護受給者のイメージは悪いのが実態です。
そのため大家の中には、「生活保護費で豪遊しているのではないか(=家賃を踏み倒すのではないか)」「人間性に問題があるのではないか(=周辺住民とトラブルを起こすのではないか)」と心配して生活保護の受給者を断るケースが多いのです。
そのため生活保護を受給している人は、不動産会社にあらかじめ受給者であることを伝えて入居可能な物件を探してもらいましょう。そうすることで、上限内の家賃で生活保護受給者が住める物件を見つけやすくなります。
また生活保護受給による悪いイメージを払しょくするために、不動産業者へ出向く際には清潔感のある服装で訪れ、誠実な対応を心がけましょう。不動産業者に悪印象を持たれると、好条件の物件を紹介してもらいにくくなります。
場合によっては、家賃を踏み倒す心配がないということを証明するために代理納付の利用も検討しましょう。これは、借主が家賃を使い込んで踏み倒すことを防ぐために、役所が直接大家に家賃の支払いをする制度です。
この制度を利用すると、貸主(大家)は家賃を滞納される心配がなくなります。そのため、大家に断られにくくなると共に入居審査に通りやすくなります。
複数社から引越し見積もりをもらい、安い業者を利用する
こうして引越し先が決まったら、引越し業者との契約を行います。引越し業者の利用料金は全額扶助されるのが基本ですが、金額が高すぎるとケースワーカーから難色を示されるケースが多いです。そのため生活保護下での引越しでは、複数の引越し業者から見積もりをもらい、安い会社と契約しましょう。
また、ケースワーカーは引越し業者からの見積もり詳細をチェックします。このとき、梱包サービスなどの有料オプションをつけていると、外すように指導されます。そのため引越し業者から見積もりをもらう際には、必要最低限の運搬・運送のみを依頼しましょう。
このとき引越し費用の一時扶助を受けるのであれば、利用する引越し業者の見積もりと物件の契約書を持って役所で手続きを行います。このとき、必要な書類は自治体によって異なります。そのため、あらかじめケースワーカーに必要書類の詳細を確認しておくことが大切です。
一方で引越し費用を所持金でまかなえるのであれば一時扶助の申請は不要です。所持金から引越しにかかる費用を出し、その後費用の確定書類をそろえて役所へ提出しましょう。多くの場合、1~2ヶ月以内には引越し費用が支給されます。
このようにして引越しを終えたら、引越し先の住居を確認するためにケースワーカーが訪問します。そのため引越しを終えたらケースワーカーに連絡し、訪問日の調整を行います。このようにして生活保護下での引越しは終わりです。
生活保護受給者は条件を満たせば自己負担なしで引越し可能
ケースワーカーが「やむを得ない事情がある」と認めた引越しであれば、引越しにかかる費用が支給されます。ただ生活保護下での引越し条件は厳しく、受給者の希望だけで引越しができるわけではありません。
このとき、自費であれば自由に引越すことが可能です。ただ自腹で引越すと「経済力がある(=生活保護が必要ない)」とみなされて生活保護が打ち切りとなる可能性があります。
どちらの場合であっても、生活保護の受給者がケースワーカーに無断で引越しすることはできません。そのため引越しを希望している生活保護受給者は、まず担当のケースワーカーに相談しましょう。
また引越しすることが決まったら、生活保護の受給者でも住める物件を不動産業者に紹介してもらいましょう。引越し費用が高くなるとケースワーカーに認められなくなるため、複数の見積もりをもらった上で費用の安い引越し業者を利用しましょう。
引越しのとき、必須となるのが「複数社から見積もりを取ること」です。引越し価格には定価がなく、引越し業者によって見積もり額はバラバラです。そのため複数の業者から見積もりを取るだけで、何万円も節約できます。
例えば、以下は5人家族の長距離引越しで見積もりを取ったとき、4社に見積もりを依頼しました。このとき、最高額は438,264円でした。一方、最も安い業者は198,720円であり、半額以下の料金になりました。複数業者へ依頼しないだけで、大きな損をすることになります。
ただ、自ら業者を探して電話をかけるのは大変です。そこで、必要な情報を入力するだけで完了する一括見積もりを利用しましょう。
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