個人事業主や会社経営者であれば、自らのオフィスを持っていることが多いです。事務所や店舗として、自宅とは別に働き場があるのです。

ただ、ずっと同じオフィスで働くことはありません。小規模オフィスだったとしても、規模が大きくなったら大きな事務所へ引越しをすることになります。また、店舗の場所を変えるために引越しをすることもあります。

一般的な引越しに比べると、オフィス移転では役所手続きでのやることが増えて煩雑になるように思えてしまいます。実際はそうでもないのですが、個人事業主や会社経営者はあらかじめどのような準備をすればいいのか把握しなければいけません。

ここでは、経営者が理解するべき「事務所引越しでやるべきことや手続き」について解説していきます。

最初は退去予告期間を確認

オフィス移転の場合、当然ながら新たに入居する事務所候補を探さなければいけません。このとき、最初に確認すべきものが退去予告期間です。

賃貸不動産では、必ず退去予告期間が設けられています。退去予告期間とは、「中途解約する場合は退去日の3ヵ月前までに申し出なければいけない」などのように、事前通告の期間を契約書で定めたものになります。

例えば、以下の賃貸物件の場合は「2ヵ月前までに申し出なければいけない」という決まりとなっています。契約書で記載されたものであるため、これについては必ず守らなければいけません。この賃貸物件の場合、退去の申し出をして2ヵ月は解約できないようになっているのです。

一般的な賃貸マンションやアパートの一室を借りて事業を始める場合、退去予告期間は1~2ヵ月になります。これが小規模オフィスの部屋になると、退去予告期間は3ヵ月になります。ただ、それなりに面積のある事務所スペースであると、通常の退去予告期間は6ヵ月です。

また、店舗のような場合だと同じように退去予告期間は6ヵ月が一般的です。

オフィス移転では、半年などわりと長い期間は契約解除できないことがあります。そのため、賃貸契約書を確認して「いつから事務所移転が可能なのか」について確認するといいです。計画的に引越しをしないと、古い店舗と新店舗で二重家賃が発生するようになります。

・賃貸オフィスを探す

退去予告期間を確認後、ようやく新オフィスを探す手順に入ります。このときは「地名 オフィス 賃貸」などで検索するといいです。例えば横浜に事務所を構えたい場合、「横浜 オフィス 賃貸」で賃貸不動産を探します。駅名を入れても問題ありません。

  • 店舗の面積
  • 駅からの近さ

これらを確認しながら、新事務所を決定するようにしましょう。

普通の賃貸マンションを借りて小規模オフィスにするのか、大きめの事務所にするのか、店舗を構えて一般客を受け入れるのか、要望は人によって異なります。

個人事業主や会社経営者を含め、自分の事業規模に合ったオフィスを借りるようにしましょう。このとき、新事務所でリフォーム工事が必要な場合は早めに準備を進めておくといいです。

事務所移転に伴う役所での手続き

個人事業主・フリーランスが引越しをする場合、自宅兼事務所にしていることもあります。その場合、自宅兼事務所の引越しに伴って納税地が変更することがあります。この場合、税務署へ一枚の紙を提出するだけで問題ありません。

「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」となりますが、税務署へ出向けば必ず置いてあるのでこれに記載して提出するようにしましょう。旧居の税務署へ書類を提出するだけで問題ありません。

納税地が変更しなかったとしても、事務所を移転して「開業届に記載した住所と異なる」ようになった場合、いずれにしてもこうした書類の提出が必要になります。

同一のビル内で引越しをしたとしても、フロアが変わって住所変更したことになるため届出が必須です。管轄の税務署へ出向き、書類を記載して提出しましょう。

法人の場合は司法書士に丸投げする

個人事業主(自営業)・フリーランスの場合は一枚の紙を提出するだけで問題ありませんでした。それでは、会社組織の場合はどうなるのでしょうか。登記している関係上、法人では事務所を移転する場合はたくさんの書類を提出しなければいけません。

具体的には、以下のようになります。

・本店移転登記:法務局

本店を移動する場合、法務局へ移転届を提出しなければいけません。移転前の管轄法務局に対して、移転後2週間以内に必要書類を提出します。

・異動届:税務署

旧居と新居の税務署に対して、それぞれ異動届を提出します。移転後に書類を作成し、税務署へ出すようにしましょう。

・異動届:地方税事務所

移転前の地方税事務所に対して、異動届を提出します。提出先は自治体によって異なりますが、「東京 地方税事務所」「大阪 地方税事務所」などで検索すると提出先を調べられます。

・事業所所在地変更届:年金事務所

移転前にある管轄の年金事務所に対して、事業所所在地変更届を提出します。引越し後、5日以内に提出しなければいけません。

・名称・所在地変更届:労働基準監督署

労働保険の関係で名称・所在地変更届を移転後の管轄労働基準監督署へ提出します。新オフィスへ移転後、10日以内に出さなければいけません。

・雇用保険事業所変更届:職業安定所

雇用保険の関係上、雇用保険事業所変更届を移転後の職業安定所へ提出します。引越し後、10日以内に提出しましょう。

【法人はすべて、司法書士を頼る】

ただ、会社経営者の中でこうした作業を自分で調べて行う人は一人もいません。移転に伴う必要書類や書え式を調べている暇はありませんし、提出まで期限があるので大変です。

そこで、どの法人経営者も司法書士に業務を依頼します。自分で調べれば何十時間も必要となり、面倒な役所手続きをしなければいけませんが、司法書士へ依頼すればすべての作業を数万円の費用で行ってくれるため、司法書士を使わない理由はありません。

会社経営者の場合、役所手続きについて調べる必要はありません。素直に司法書士などの専門家に頼るようにしましょう。

電話の移転手続き

また電話がある場合、同時に電話の手続きを引越し前から進めておくようにしましょう。引越しの一ヵ月前までには、NTTなどに電話して確認するといいです。

同じ電話番号を引越し先でも使えるかどうかについては、同一の市区町村での引越しであれば可能です。ただ、異なる市区町村へ事務所移転する場合、異なる電話番号になることを理解しましょう。

例外として、「0120」など局番に関係ないフリーダイヤル(電話番号)の場合は同じ番号での引き継ぎが可能です。

なお、いまの時代に電話回線を引く工事をする事業者は少ないです。ひかり電話など、インターネット回線を利用した電話を利用します。通話用回線を活用してもいいですが、インターネット回線を用いた電話をオフィスで活用することを考えましょう。

実際の引越しの流れやスケジュール

それでは、実際のところどのようなスケジュール感で準備を進めていけばいいのでしょうか。スケジュールを確認したうえで段取りを進めていかなければいけません。

このとき、一般的には以下のようなスケジュールになります。

3~6ヵ月前の段取り

退去予告期間の関係から、通常は3ヵ月や6ヵ月前までに「事務所を移転したい」と大家(または管理会社)に申し出る必要があるため、早めにその旨を伝えなければいけません。同時に社内に移転チームを立ち上げることになります。

※小規模事務所であり、社員10人以下の場合は移転チームのスタッフを用意するほどではなく、通常の引越しと同じように特別な作業は必要ありません。

また、同時に引越し業者の一括見積もりを行うようにしましょう。引越し業者には「アート」「日通」「サカイ」「アリさん」「クロネコヤマト」と種類があります。それらの業者に一括見積もりをすることで値段を比較するのです。

複数社に見積もりを依頼しないと引越し価格は確実に高くなります。引越し料金に定価はなく、値段は引越し業者の言い値だからです。もちろん料金相場はあるものの、業者によってまったく値段が違うので必ず金額の比較が必要です。

参考までに、引越し費用の料金相場は社員一人あたり2~3万円とされています。これに、オフィス家具の廃棄代や解体代、家具・書類の処分費用、電気工事代などが加わります。

・特殊な荷物でも運搬可能

なお、飲食店のように大型冷蔵庫など特殊な厨房機器がある場合であっても、これらの引越し業者へ依頼すれば問題ありません。例えば、以下はヤマトホームコンビニエンス(クロネコヤマト)の公式サイトに載っているものですが、業務用冷蔵庫から治療器を含めて運搬可能です。

そのため、コピー機や業務用金庫を含め何でも運搬を依頼できると考えてください。

業務用の引越しであると、どうしても重い荷物が出てくるなど作業が大変になります。そのため小規模事務所であったとしても、早めに一括見積もりを依頼するようにしましょう。

ただ、オフィス移転の中でも、普通の賃貸マンション一室を借りているような非常に小規模の店舗の場合、引越し業者への見積もり依頼は一ヵ月前などでも問題ありません。

14~30日前の段取り

引越しまで一ヵ月を切ったのであれば、司法書士に依頼して役所への手続きを始めるなど準備を進めていく必要があります。また、得意先に手紙やメールなどで事務所移転のお知らせをするようにしましょう。

それと同時に、荷造り・梱包を進めていきます。引越し業者に依頼すれば、ダンボールが送られてきます。これらのダンボールへ荷物を詰めていき、荷造りを進めていくようにしましょう。

もちろん、仕事ができなくては困ります。そのため、パソコンや机、イスなどについては何も手を付けず、その他の書類や荷物についてのみ荷造りを進めていくといいです。

ちなみに、「梱包作業が面倒」「荷造りをしていたら仕事が進まない」などの理由がある場合、引越し業者へ荷造りをお願いすることもできます。引越し日の当日、引越し業者のスタッフがすべての荷造り・梱包を行ない、荷解きまでしてくれるのです。引越し価格は軽く2倍以上になりますが、こうしたプランも選択できます。

また、以下のものについても新たに作成する必要があるので作り変えるようにしましょう。

  • 新たな住所の名刺
  • 封筒・便せん・ゴム印の作成

ほかにも、個別の状況により住所変更に伴って切り替えなければいけない物品類が出てくるでしょう。これらは用意するまで数日は必要なため、一ヵ月前になったら準備をしておくといいです。

当日の引越し手順

前日までに荷造りを済ませたら、ようやく引越しになります。ダンボールへきちんと梱包をした状態であれば、基本的にこちらが行うことはほとんどありません。

ただ、いくら完璧に梱包したとしても後から書類や荷物が出てくるものです。そうしたものについて、そのつどダンボールへ梱包すれば問題ありません。

なお、大型の家具や特殊な業務用器具(金庫や大型冷蔵庫など)、デスクトップパソコンを含めてダンボールに入らないものについてはすべて引越し業者が作業をしてくれます。

引越しの段取りについては、前日までの作業ですべて完了します。当日はすべて引越し業者に作業を任せれば問題ありません。

全体のスケジュール工程表を確認し、前日までに準備を進めるようにしましょう。

概算の金額を把握し、格安引越しをする

やることのチェックリスト項目については、一般的な引越しに比べると非常に少ないです。住民票の移動は必要ないですし、役所手続きについても法人であれば司法書士に丸投げすれば問題ありません。

ただ、引越し費用については一般的な引越しに比べて高額になりやすいです。このとき、引越し金額の概算を知ることはできないのでしょうか。

先に述べた通り、社員一人あたり2~3万円の引越し費用になるのが一般的です。これに加えて、さまざまな代金が加わると考えてください。例えば社員10人での引越しだとすると、以下のような料金相場になります。

  • 引越し代:社員10人 × 3万円 = 30万円
  • オフィス家具・書類の廃棄処分費用:3万円
  • 棚や机の解体&組立代:5万円

引越しに伴い、不要な家具類が必ず出てきます。これらの中でも大型家具や家電製品を自ら廃棄処分するのは面倒なので、引越し業者に処分を代行してもらうようにしましょう。場合によっては買取してくれることもありますが、基本は無料引き取りになります。

また、棚や特殊な机を運搬するときは分解・組立をします。この作業は有料オプションになります。そのため、追加料金が必要になると考えてください。

このように考えると、近距離引越しでは38万円ほどの概算金額になることがわかります(長距離引越しだとさらに高額になりますが、基本的に事務所移転は近距離引越しになるため、ここでは近場への引越しで概算金額を出しています)。

なお、さらにパーテーション工事をすれば10万円以上が加算されますし、電気工事をすれば20~30万円ほどのプラス費用になります。

また退去のときは原状回復費用が必要になります。一般的には坪単価2~5万円です。原状回復費が1坪3万円だった場合、10坪の店舗なら30万円の原状回復費用となります。

原状回復費用については削減できません。ただ、引越し代については見積もり比較をすることで、コストを減らすことができます。引越し代金は業者によってまったく異なるため、安い引越しになるように必ず複数社へ見積もりを依頼するようにしましょう。

引越し代は全額を経費にする

すべて問題なく引越し作業を完了したら、後は経費精算するだけです。このとき引越し代については、かかったものについてすべて経費にするようにしましょう。支払い家賃に限らず、敷金・礼金や鍵交換日、火災保険料など全部経費化するのです。

教科書的なことをいうと、敷金は資産計上することになります。また、礼金についても20万円以上は資産にして減価償却します。

ただ、このような面倒な経理をする経営者はいません。個人事業主や会社経営者を含め、敷金や礼金などの費用は「地代家賃」または「雑費」の勘定科目で全額を経費化しましょう。私の顧問税理士もそのようにしていました。面倒な仕訳をしないことが経費処理のコツです。

また、引越し業者への支払いや賃貸不動産の仲介会社への手数料については、勘定科目は雑費になります。火災保険料については、「支払保険料」の勘定科目にしましょう。

オフィス引越しは費用相場が高い

事務所や店舗を移転するからといっても、特別なことはそこまで多くありません。少なくとも、書類関係(役所手続き)は司法書士に丸投げするだけで大丈夫です。個人事業主(自営業)やフリーランスにしても、税務署に一枚の紙を出すだけで済みます。

やることは普通の引越しと同じなので、そこまでチェックリストやタスク(行うべきこと)は多くありません。唯一、注意点として退去予告期間が3ヵ月や6ヵ月と長く、移転するときはかなり早めに大家(管理会社)へ伝えなければいけないことがあります。

このとき、社員が多い会社であるほど引越し時の料金相場は高くなります。経費コストが非常に大きくなるため、できるだけ安い引越しを目指すようにしましょう。

おすすめ業者としては、大手や中小を含め一般的な引越し業者です。「アート」「日通」「サカイ」「アリさん」「クロネコヤマト」などでもオフィス引越し部門があり、特殊な機器があっても問題なく引越しすることが可能です。

引越し代金が高くなるからこそ、複数業者へ見積もりを依頼しましょう。激安での引越しを実現する一番の近道が一括見積もりです。低コストで引越しを実現することで、経費削減をしながら満足のいく提案をしてくれる業者に依頼するといいです


引越しのとき、必須となるのが「複数社から見積もりを取ること」です。引越し価格には定価がなく、引越し業者によって見積もり額はバラバラです。そのため複数の業者から見積もりを取るだけで、何万円も節約できます。

例えば、以下は5人家族の長距離引越しで見積もりを取ったとき、4社に見積もりを依頼しました。このとき、最高額は438,264円でした。一方、最も安い業者は198,720円であり、半額以下の料金になりました。複数業者へ依頼しないだけで、大きな損をすることになります。

ただ、自ら業者を探して電話をかけるのは大変です。そこで、必要な情報を入力するだけで完了する一括見積もりを利用しましょう。

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