自営業・フリーランスなどの個人事業主が引っ越し作業をするとき、一般的な引越しとは異なる作業が必要になります。会社員とは違って自らビジネスをしている人だからこそ、面倒な手続きが待っているのです。

例えば、個人事業主が引越しするときは確定申告する税務署の場所を変える必要があるため、所定の書類を提出しなければいけません。

また、引越しをすることで住民票の住所変更をした場合、国民健康保険証を使えなくなる可能性が非常に高いです。早めに手続きをしなければ、高額な医療費がのしかかるようになります。

ビジネスを動かす自営業・フリーランスが引越しをするときはやることがたくさんあります。具体的に何をするべきなのかを把握し、事前に引越し準備を済ませるようにしましょう。

自営業・フリーランスに必要な手続き

引越しをするとき、転出届・転入届の提出(住民票の変更)や郵便物の転送などさまざまな作業が必要になります。

ただ、これらはサラリーマンの引越しでも行います。それでは、個人事業主に特徴的な引越し手続きとしてはどのようなものがあるのでしょうか。

自営業・フリーランスが引越しのときに行うべきものとしては「事業所の異動届」「国民健康保険の変更」「国民年金の手続き」があります。どのようにすればいいのかについて、以下で確認していきます。

事業所の異動届

個人事業主が引越しをすることで事務所を移転する場合、税務署に届出をしなければいけません。自営業者は開業届(個人事業の開業届出・廃業届出等手続)を提出し、白色申告や青色申告を選びますが、開業届で記載した事業所の住所を変更するのです。

同じ引越しでも、「自宅兼事務所ではないため、引越しをしたとしても事務所の住所は変わらない」という場合はこの作業を省くことができます。例えば、美容師の人が住む家を変えて引越しするものの、美容室の場所は変えないというケースです。

ただ、自営業やフリーランスであると自宅兼事務所にしていることが多いです。自宅兼事務所の場合、引越しは事務所の移転を意味します。このとき、必ず提出しなければいけない書類が「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」です。

この書類は税務署の窓口に置いていますし、国税庁のサイトからダウンロードすることもできます。

税務署に置いてある書類としては、「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」と「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」の2種類があります。このうち、引越しで必要なのは「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」になります。

書き方は以下の通りです。税務署へ出向き、そこで書き方を聞いても問題ありません。

旧居の住所についても記載する必要があるため、この書類を提出するのは賃貸マンション・アパートを契約して引越し先の住所が決まった後になります。

また、住民票を変更するために「転出届を出した日の日付」についても記載の必要があるため、この書類を提出できるのは引越し直前になります。転出届は引越し前の14日以内から役所で提出できます。その後、税務署で上記の書類を出せるようになるのです。

なお、わかりにくい項目として「消費税の納税地の異動に関する届出書」というチェック項目があります。

個人事業主の場合、課税売上高(消費税を含まない売り上げ)が1,000万円以上になると、消費税を支払わなければいけません。こうした個人事業主は消費税の課税事業者に当たるため、「消費税の納税地の異動に関する届出書」にチェックを入れます。

ちなみに、マイナンバーについては、ない場合は無記入で書類を提出すれば問題ありません。

納税地の変更については、「廃業届を出した後に開業届を再び出すのか?」など多くの疑問が生まれます。ただ、旧居の税務署に一枚の紙を提出するだけで作業が完了します。

同一市内や区内で引越しするケース

納税地が異なる場合、異動届を出すことがわかりました。それでは、同一市内や区内など近場で引越しをすることになり、管轄税務署が同じ場合はどのようにすればいいのでしょうか。

このとき、開業届(個人事業の開業届出・廃業届出等手続)と同じ書類を提出します。

開業するために白色申告や青色申告を決定する場合、「新設」の項目にチェックを入れて提出します。一方で同じ管轄税務署で引越しをする場合、開業届の「移転」にチェックを入れることになります。

引越しをするとき、管轄税務署が変わるかどうかによって提出書類が変わってきます。

国民健康保険証の更新

税務署での作業は「旧居で一枚の紙を出すだけ」ですが、役所(市役所や区役所など)では他の手続きが必要になります。この中に国民健康保険証の変更があります。

国民健康保険証を見ればわかりますが、必ず住所が記載されています。サラリーマンが保有する社会保険証では住所の記載がないものの、国民健康保険証では以下のように現住所の記載があるのです。

住所変更によって住民票の住所を変えた場合、自営業・フリーランスの人は国民健康保険証の住所変更をしなければいけません。

・同じ市区町村での引越し

国民健康保険を管理しているのは市区町村での単位になります。そこで、同じ市区町村で引越しをする場合、引越し後に役所の窓口へ出向いて転居届を出し、国民健康保険証に記載された住所を変えてもらうようにしましょう。

国民健康保険証の発行はその場で行ってくれるため、即日発行されます。役所の窓口としては、以下のような場所へ行けば問題ありません。

市役所や区役所など、役所へ行けば必ず国民健康保険の窓口が存在します。

・異なる市区町村への引越し

一方で異なる市区町村へ引越しする場合、旧居の役所で国民健康保険を返納するようにしましょう。転出届を出すのと同時に国民健康保険証を返すのです。

その後、引越しをして新居へ出向いたときに役所で転入届を出すのと同時に、国民健康保険証を発行してもらいます。国民健康保険証を返納し、新たな国民健康保険証を発行してもらうまでは医療費が全額負担(手続きにより、後から自己負担分を除いて返還可能)になるため、病気やケガには注意するようにしましょう。

なお、引越し後の14日以内にこれらの手続きを済ませる必要があります。

国民年金の手続き

国民全員が加入しなければいけないものとして年金があります。個人事業主の場合、国民年金に加入することになります。

手続き場所は国民健康保険と同じように、市区町村の役所になります。ただ、国民健康保険証では転居前と転居後の役所でそれぞれ手続きをしなけれいけなかったものの、国民年金では転居後の手続きだけで問題ありません。

つまり、引越しをした後だけに国民年金の手続きをするといいです。転入届や国民健康保険証の発行をするのと同時に国民年金の住所変更をするようにしましょう。

なお、同じ管轄内で引越しをするときであっても住所変更の手続きが必要になります。要は、引越しをして住民票の住所を変えた場合、必ず国民年金の手続きが必要になると考えてください。

引越し費用を経費で落とす

これらの手続きが必要になることを理解したうえで引っ越し作業を進めるようにしましょう。ただ、個人事業主が引越しをするときに忘れてはいけないものが引越し費用です。

事務所(自宅ではなく、仕事だけで利用する事務所)を移転する場合、全額が経費になることが容易にわかります。それでは、自宅兼事務所の場合はどのようにして経費算入すればいいのでしょうか。

自宅とは別に事務所をもっている人であっても、住んでいる賃貸マンションで仕事をすることは多く、個人事業主であれば全員が居住場所を自宅兼事務所にすることができます。そのため、自営業・フリーランスである全員が引越し費用の経費について理解しなければいけません。

引越し費用を経費にする考え方と勘定科目

引越しをするときは多くの費用が発生します。それぞれのお金について、どのように経費化するのかを理解しなければいけません。

まず、大原則として全額を経費にすることはできません。一般的には、引越し料金は家賃を含めて半額が経費になります。自宅兼事務所の引越しではプライベート利用も含まれるため、全額経費ではなく半額になるのが妥当です。

・引越し業者へ支払う費用

これから引越しをするとき、発生するものとして引越し業者へ頼依頼する費用があります。個人事業主が引越しをするとき、引越し料金については半額を経費にできます。

例えば、引越し料金が4万円だった場合、2万円を経費にしましょう。仕訳での勘定科目は「雑費」になります。

・敷金

敷金は後で返ってくるお金であるため、厳密にいえば経費にすることができません。そのため、教科書的にいえば敷金を「資産」で計上します。

ただ、実際のところ退去のときは敷金の多くが消費されますし、下手に仕訳のときに資産計上すると非常に面倒です。そのため、ここまで厳密にする必要はなく実際のところ多くの人が敷金の半分を「地代家賃」の勘定科目で経費化しています。

半額が経費のため、敷金のうち半分を経費計上しましょう。

会計という面倒な作業を排除し、自分のビジネスに集中するのが優秀なビジネスマンです。確定申告のとき、下手に資産を増やした状態にするのではなく経費化するといいです。

・礼金

礼金についても同様に半額を経費にしましょう。全額は経費化できませんが、半額であれば妥当な金額だといえます。礼金の勘定科目は敷金と同じように「地代家賃」です。

なお、礼金について厳密にいえば、20万円以上の場合は「資産」で仕訳をして、年数に応じて減価償却していきます。ただ、実際のところそのような面倒な仕訳をしている人はいないため、専門家の言うことを真に受けて真面目に仕訳する必要はありません。

現在の私は会社経営をしていて顧問税理士もついていますが、彼ら(税理士)も面倒な作業を減らすために「高額な買い物なので、本来は減価償却しなければいけないもの(例えば30万円以上のパソコンなど)」を一括による現金処理しています。これが実情であるため、下手に資産計上せずに地代家賃として半額を経費にしましょう。

万が一、税務調査に入られてもそのような細かいことを指摘されることはないため、無駄に心配せず簡単な仕訳方法を採用して自分のビジネスに集中することを考えましょう。

・引越し後の家賃

家賃については、「プライベートで利用している部分」と「仕事で利用している部分」で換算した家賃で計算します。例えば、家賃10万円の賃貸マンションで40%の面積部分を仕事で利用している場合、4万円分を経費にできます。

どれだけを仕事で使用しているのかは本人の解釈によって異なります。ただ、一般的には自宅兼事務所では家賃の半分を経費にするのが一般的です。

引越し料金や敷金・礼金の半額を経費化できることを述べましたが、これは世間一般的に「個人事業主は家賃の半分を経費化できる」からなのです。

なお、その他の費用としては火災保険(科目:損害保険料)や仲介手数料(科目:支払手数料)、鍵交換費用(科目:雑費)なども存在します。これらについても、仕訳のときに半額を経費化して確定申告しましょう。

個人事業主に必要な引越し方法を理解する

サラリーマンや会社経営者とは異なり、個人事業主だからこそ必要な手続きが存在します。

自営業・フリーランスが引越しをする場合、住所変更に伴って税務署に「得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を提出する必要があります。同一市内や区内での引越しで管轄税務署が同じ場合は開業届の住所変更を提出すれば問題ありませんが、いずれにしても税務署での手続きが必要になります。

また、住所変更に伴って国民健康保険や国民年金の作業をしなければいけません。役所へ行って必要書類を提出するようにしましょう。

さらに、個人事業主では経費を使えるため、引越し費用については必ず経費計上したうえで確定申告する必要があります。節税することで、無駄な税金を抑えるのです。全額を経費にすることはできないものの、引越し業者への支払い費用や敷金・礼金、家賃を含めて半額を経費化することができます。

こうしたことを学んだうえで引っ越し作業を進めれば、スムーズに自宅兼事務所の移転を完了することができます。自営業・フリーランスの引越しで必要な手続きを確認し、経費算入の方法まで理解したうえで引越し業者へ見積もりを依頼するようにしましょう。


引越しのとき、必須となるのが「複数社から見積もりを取ること」です。引越し価格には定価がなく、引越し業者によって見積もり額はバラバラです。そのため複数の業者から見積もりを取るだけで、何万円も節約できます。

例えば、以下は5人家族の長距離引越しで見積もりを取ったとき、4社に見積もりを依頼しました。このとき、最高額は438,264円でした。一方、最も安い業者は198,720円であり、半額以下の料金になりました。複数業者へ依頼しないだけで、大きな損をすることになります。

ただ、自ら業者を探して電話をかけるのは大変です。そこで、必要な情報を入力するだけで完了する一括見積もりを利用しましょう。

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