賃貸物件へ入居する際には、退去時の修繕費用として家賃1~2ヶ月分の敷金を支払うのが一般的です。敷金は退去時の物件修繕費に充てられ、余った分が返金されます。

ただ中には、退去時に敷金が返ってこないケースがあります。場合によっては、敷金を支払っているにもかかわらず追加で修繕費用を請求されるケースもあります。

それでは、退去時に敷金が返ってこなかった場合、どのように対応したらいいのでしょうか? また高額の修繕費用を請求されたら、どのように対処すればいいのでしょうか?

ここでは退去時に敷金が返金されなかった場合の対処法について解説していきます。

常識的に暮らしていれば敷金が返ってくるのが普通

賃貸物件の借主には、「部屋を元通りにして大家へ返す義務(=原状回復義務)」があります。そのため入居中に内装を壊したり傷つけたりした場合、あなたが費用を負担して修繕しなければなりません。

ただ、国土交通省は原状回復ガイドラインで「通常通り暮らして発生した傷・汚損は、大家負担で修繕する」ことを求めています。

例えば飲み物などによるカーペットのシミは、あなたがシミの原因となるものをこぼさなければ発生しません。十分に注意すればシミの発生を防ぐことができるため、飲食物などによるシミはあなたの負担で修繕することになります。

一方で、ベッドやソファなど家具の設置による床のへこみは「通常の暮らしで発生する損耗(=大家が修繕費用を負担)」となります。生活する上で家具の設置は必要不可欠であるためです。

参考までに以下は、原状回復ガイドラインの修繕の費用負担についての記載です。

ここには、家具の設置による床やカーペットのへこみ・設置跡の修繕費用は賃貸人(大家)が負担すると記載されています。普通に暮らしていて発生する損耗については、あなたが費用負担する必要がないのです。

このようなことから、あなたの不注意による修繕箇所があったとしても、家賃1ヶ月分のお金(=敷金)があれば十分にまかなえます。つまり一般的な暮らしをしていれば、退去時に敷金の返金があるのが普通です。

修繕費用の全額を負担するケースは少ない

またあなた過失による修繕であっても、修繕費用の全額があなた負担となるケースは少ないです。

まず、借主の修繕費用の負担については経年劣化が考慮されます。例えば壁紙やカーペットなどの耐用年数は6年とされているので、3年居住していれば壁紙・カーペットの修繕費用は全体の半分をあなたが負担することになります。6年以上居住していれば、あなたが修繕費用を負担する必要はなくなります。

参考までに以下は、原状回復ガイドラインの一部です。

ここには「経年劣化・通常の使用による損耗などの修繕費用は賃料に含まれる」と記されています。居住年数が長くなると、その分だけ修繕費用の負担割合が減少するのです。

また、あなたの過失で修繕の必要が生じた場合、あなたが負担しなければならないのは修繕が発生した部分のみです。例えば壁紙の一部に傷を付けてしまった場合、傷がある壁紙1枚分の張替え費用があなたの負担となります。

このように、あなたの過失で修繕が必要になっても修繕費用を全額負担する必要はないケースがほとんどです。ただ悪質な大家だと、ガイドラインの内容を無視して修繕にかかった費用を全額請求してくるケースがあります。

例えば「傷の部分だけ壁紙を張り替えると色が合わないため、全面張替えが必要になった。あなたの過失による修繕であるため、張替え費用を全額負担するべきだ」と主張する大家は多いです。

壁紙1枚分であれば数千円で済む修繕費用であっても、全面張替えとなると数万円かかります。つまり修繕費用が高額となっている場合、本来であれば負担する必要のない範囲まであなたの費用負担となっている可能性があるのです。

敷金が返ってこなくてもやむを得ないケース

ただ中には、敷金が返ってこなくても仕方がないケースがあります。

例えば壁にネジ穴を開けたり、掃除を怠って下地ボードまでカビが浸食したりしていると、壁紙だけではなく下地ボードの張り替えも必要となります。

壁紙の張替え費用は1平方メートルあたり数千円で済みますが、下地ボードの張替えでは1平方メートルあたり3~4万円かかります。そのため下地ボードの張替えが必要となると、修繕費用が高くなる(=敷金の返金がなくなる)ケースがあります。

また「敷金が返ってこない」「修繕費用を追加で請求された」と考えている人の中には、敷金なしで入居しているケースもあります。

当然ながら、入居時に敷金を支払っていなければ返金されないですし、退去時に修繕費用の支払いも発生しやすくなります。入居から時間が経過しているとこのような勘違いが発生しやすくなるため、「敷金が返ってこない」と思ったらまずは入居時の契約書を確認してみましょう。

契約書の内容が最優先となる

また、原状回復ガイドラインに沿わない請求であっても、契約書に費用負担に関する記述がある場合、あなたが費用を負担しなければなりません。原状回復ガイドラインはあくまで指針であり、契約書の内容を覆す効力はないためです。

例えば原状回復ガイドラインでは、クリーニング費用の支払いは借主の義務としていません。ただ「クリーニング費用〇円は借主負担とする」という内容で契約している場合、借主にはクリーニング費用の支払い義務が生じます。

また「消臭費用」「消毒費用」などは、本来であれば支払う必要のない項目です。ただ契約書に「退去時に消臭費用(消毒費用)〇〇円を支払う」と記載されているのであれば、この内容で契約している以上支払わなければなりません。

このような「本来支払う必要のない項目」であっても、確認サインをしている時点で支払いを了承していることになります。そのため契約書に支払い義務について記載がある場合、支払いを拒否することは契約違反となるので注意しましょう。

ペットの飼育や喫煙していると、敷金の返金がなくなりやすい

またペットを飼っていたりや喫煙の習慣があったりする場合、敷金が返ってこないことを覚悟した方がいいです。ペットの飼育や喫煙による部屋の汚れがあると、修繕費が高くなりやすいためです。

例えばペットが壁・床を傷つけたり粗相をしたりした場合、下地ボードや床材の取り換えが必要となるケースが多いです。前述のように、下地まで取り換えると修繕費用が高額になります。

また、室内で喫煙すると壁紙や床、扉など部屋全体にヤニ汚れが付着します。そのため習慣的に喫煙していると、壁紙などの張替え範囲が広くなることによって修繕費用が高額になりやすいです。

このとき、喫煙汚れによる修繕に対しても経年劣化が考慮されます。そのため居住年数が長くなると、壁紙などの張替え費用負担は少なくなります。

ただ居住年数が長くなると、トイレや浴室などの耐用年数が長い設備にもタバコのヤニ汚れが付着するケースがあります。これら設備を交換すると修繕費用が非常に高額になるため、敷金が返ってこないどころか、高額の修繕費用を追加で請求されることになります。

このように、ペットを飼っていたりタバコを吸っていたりした人は原状回復費用が高額になりやすいです。そのため、敷金が返ってこなくても諦めなければならないケースが多いです。

便利で新しい設備であっても、大家の許可なしに設置したら撤去費用がかかる

なお中には、賃貸物件の備え付け設備を新調する人がいます。このような場合、「借主の負担で設備が新しくなったのだから、設備をそのまま置いていって問題ない」と考える人は非常に多いです。

ただ、大家の許可なしに備え付けの設備を変更した場合、原状回復の対象となる(=元に戻さなければならない)のが基本です。そのため大家の事前許可なしに設備をそのまま置いて退去すると、撤去費用の発生によって原状回復費が高くなる(=敷金が返金されなくなる)可能性があります。

例えば、トイレや給湯器などを新調した場合、設備をグレードアップしていたとしても退去時には元に戻すのが原則です。

当然、大家の中には借主が置いていった設備をそのまま活用する人もいます。ただ借主が無断で置いていった荷物・設備は残置物の扱いとなり、貸主が勝手に処分できません。これは、設備が壊れた場合も同様です。

当然ながら、便利で最新の設備であっても使用し続ければいつかは壊れます。ただ残置物だと破損しても処分できないため、倉庫などを借りて保管しなければならなくなります。

このような事態を避けるために、設備を新調した場合であっても退去時に設備の撤去を求める大家は多いです。実際、新調したトイレや給湯器などの撤去費用を退去時に請求された事例は多数あります。

そのため有用な物であっても、大家に黙って設置したのであれば原状回復費として高額の撤去費用を請求されても拒否できないので覚えておきましょう。

高額の原状回復費用を請求された場合の対処法

なお、このような特殊な事情がない限り、高額な修繕費用の請求は不当であるケースがほとんどです。実際、原状回復義務について「借主には原状回復の義務がある(=入居前の状態に戻すための費用をすべて請求できる)」と過大解釈している大家は多いです。

そのため心当たりがないにも関わらず、敷金の返金額が少なかったり敷金以上の修繕費用を請求されたりした場合、まずは請求の内容と内訳をチェックしましょう。

請求が不当であるようであれば、「原状回復ガイドラインに沿わない不当な請求である」と伝えて支払いを拒否しましょう。このようにして伝えれば、請求が見直されて敷金の返金が発生するケースがほとんどです。

国民生活センターに相談してADRを活用する

ただ中には、正当な主張をしても取り合ってもらえないケースがあります。このような場合、ADR(裁判外紛争解決手続)の利用を検討しましょう。

ADRは中立の調停人にトラブル解決の仲介をしてもらう制度です。数千円の費用負担で利用でき、2週間~1ヶ月でトラブルを解決することができます。

このとき、ADRでは調停人の立ち会いによる双方の話し合いが複数回行われます。大家としてはトラブルを早期に解決して部屋を貸し出したいところであるため、「裁判外紛争解決手続を進める」と大家に伝えるだけでトラブルが解決に向けて進展するケースは多いです。

ADRの調停人については、消費者センター(国民生活センター)に相談すれば紹介してもらえます。そのため敷金トラブルを自分の力だけで解決するのが難しいようであれば、まず国民生活センターに相談しましょう。

なお敷金のトラブルについて、弁護士に解決を依頼する手段もあります。ただ、弁護士に仕事を依頼すると非常に高額な費用がかかります。そのため基本的には、ADRの活用でトラブル解決を目指しましょう。

不当な請求を防ぎ、敷金の返金を受ける

部屋を過度に傷つけたり改造したりしていると、修繕費用が高くなります。またペットの飼育や習慣的な喫煙も修繕費用が高額になる一因です。中には、良かれと思って備え付けの設備を新調した結果、撤去費用がかさむケースもあります。

修繕費用が高額になると、敷金ではまかないきれなくなります。その結果、敷金が返金されなかったり追加で修繕費用を請求されたりします。

ただ基本的に、一般的な暮らしをしていれば修繕費用が高額なることはなく、敷金の返金を受けられるのが基本です。そのため高額の修繕費用を請求されたら、まずは内訳と詳細を確認しましょう。

請求された原状回復費用が不当な場合、まずは「原状回復ガイドラインに沿わない請求である」と大家に伝えましょう。それでも敷金トラブルが解決しないようであれば、国民生活センターへ相談して裁判外紛争解決手続の利用を考えましょう。これが敷金トラブルへの対処法になります。


引越しのとき、必須となるのが「複数社から見積もりを取ること」です。引越し価格には定価がなく、引越し業者によって見積もり額はバラバラです。そのため複数の業者から見積もりを取るだけで、何万円も節約できます。

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