家へ侵入する害虫にはさまざまな種類があります。その中でも、実害が大きく厄介なのが「服を食べる虫(=衣類害虫)」です。

ただ中には、衣類害虫の被害に遭ったことがない人もいます。このような場合、「実際に服を食われた経験はないが、防虫対策は本当に必要なのか?」と思いがちです。

しかし、衣類害虫に服を食われると生地が薄くなったり穴が空いたりするため、補修しないと着られなくなってしまいます。そうすると余計な手間・費用がかかりますし、中には気持ち悪くて虫食いの服を着られなくなる人もいるでしょう。

このような虫害から衣服を守るためには、事前の対策が必要です。特に引越しは虫が家に侵入しやすいタイミングなので、防虫対策を行わないと知らないうちに衣服に虫食い穴が空いてしまう可能性があります。そこで、ここでは引越し時の服の防虫について解説してきます。

引越し時に服の防虫対策が必要な理由

一般的に「部屋の中でゴキブリを1匹見たら、数十匹は住み着いていると思った方がいい」といわれます。実際、目に入った1匹のゴキブリは氷山の一角に過ぎず、部屋の中に巣を形成しているケースは非常に多いです。

これは、衣類害虫も同様です。衣類害虫は一度に数十個の卵を産みます。そのため衣服の虫食いに気付いた段階では、タンスやクローゼット内部に多くの衣類害虫が住み着いている可能性が高いです。

ただ衣類害虫は小さく、服の中に潜り込みます。そのため、タンスやクローゼット内に大量発生した衣類害虫をすべて駆除するのは簡単ではありません。

このようなことからも、服の虫害を防ぐためには服に虫を寄せ付けない(=防虫する)ことがもっとも大切です。

引越し作業中は衣類害虫が侵入しやすい

このとき、衣類害虫にはいくつかの種類がいます。ただいずれの種類であっても、衣服を食べるのは幼虫期のみです。成虫になると花の蜜などを食料とするため、野外で生活するようになります。

その後、産卵の時期になると幼虫のエサが多いところに卵を産み付けます。つまり、服の虫食いは外から侵入した衣類害虫によって引き起こされるのです。

このとき、引越しはさまざまな害虫が部屋に侵入しやすいタイミングです。荷物の搬入・搬出時には扉や窓が開けたままとなるためです。また人が何度も出入りするため、衣類害虫が人に付いて部屋へと侵入することもあります。

さらに、衣類害虫は衣服だけでなくダンボールも食べます。ダンボール内部は暗く湿度が上がりやすいため、衣類害虫の幼虫にとって快適な環境が整っています。そのため引越しの際に防虫対策を行わないと、衣類害虫が荷物や人を介して部屋に住み着いてしまう可能性があるのです。

このようなことから、大切な衣服の虫食いを防ぐためには、衣類を梱包する段階から防虫対策を実施する必要があります。

ニット不所持や冬の引越しでも防虫対策は必要なのか?

このとき中には、「シルクやニットなどの服を持っていないから問題ない」「引越しが冬なので問題ない」と考える人がいます。ただ虫食いを避けたいのであれば、いずれの場合であっても防虫対策をするべきです。

まず、シルクやニットなどが「虫に食われやすい服の代表格」であるのは事実です。ただ衣類害虫は、綿などの植物性繊維や衣服についた食べ物の汚れなども食料とします。実際、化学繊維の服であっても虫の被害に遭った事例は多いです。

また、服を食べる虫は15℃以下になると活動が低下することが分かっています。そのため、服を食べる虫が冬に野外から侵入するリスクは低いです。

ただ、冬であっても人の家は虫が活動しやすい温度に保たれているため、他の人の家には虫が住み着いている可能性があります。何かのきっかけで他の家から衣類害虫が家に侵入すると、あなたのタンス・クローゼットに虫が住み着く可能性があります。

実際、私が過去に住んでいた寒冷地の住宅では、冬であっても服が虫に食われることがありました。外気温が0℃を下回っていても、部屋の中は暖かかったため虫の被害に遭ってしまったのです。

このように、一見「衣類害虫の被害に遭わなそうな条件」が整っていたとしても、実際にはあなたの服が虫害に遭うリスクはあります。そのため衣服を虫に食われたくない人は、どのような場合であっても防虫対策を怠らないようにしましょう。

衣類の虫食いを防ぐ梱包方法

それでは具体的に、衣類害虫による被害を防ぐためには、どのようにして衣服を梱包すればいいのでしょうか? まず、服をダンボールの中に荷造りするのはなるべく避けた方がいいです。

そもそも、衣服が入ったタンスや衣装ケースに入った服はそのまま運んでもらえます。また、クローゼット内の衣服は引越し業者が用意するハンガーボックスで運ぶことができます。そのためタンスや衣装ケース、クローゼットの衣服をわざわざダンボールに詰め直す必要はありません。

また前述のように、ダンボールは衣類害虫の住処となりやすいです。そのため衣服をダンボールに入れておくと、その分だけ衣服が虫害に遭いやすくなります。

そのため新居へ運ぶ衣類は可能な限りハンガーボックスやタンス、衣装ケースなどで運搬しましょう。これら収納に入りきらない服は、まずビニール袋で包んでからダンボールへ詰めれば虫害に遭うリスクを減らすことができます。

衣類用防虫剤を使用する

また洋服を衣類害虫の被害から守るためには、防虫剤の使用も有効です。荷造りの段階で防虫剤を使用していれば、新居や新居周辺の住宅に衣類害虫が住み着いていても洋服の虫害を防ぐことができます。

衣服を守る防虫剤には大きく分けて、ピレスロイド系やパラ製剤、しょうのう製剤、ナフタリン製剤の4種類があります。

これらのうち、パラ製剤やしょうのう製剤、ナフタリン製剤などは防虫効果が高い一方、特有のニオイがあります。また、ピレスロイド系を除く3種類の防虫成分には、同じ空間で使用すると薬剤が解けて衣服に油性のシミが付くリスクもあります。

これに対してピレスロイド系の防虫剤は無臭である上に、他の防虫剤と一緒に使用しても問題ありません。そのため引越し時の服の防虫には、ムシューダなどピレスロイド系の製品を選びましょう。

防虫剤の成分については、製品の裏などに記載されています。参考までに、以下は衣類用防虫剤の製品裏です。

ここに記載されている「プロフルトリン」はピレスロイド系の成分です。他にも、衣類用防虫剤に配合されるピレスロイド系成分には「エムペントリン」があります。「防虫剤に配合されている〇〇トリン(=ピレスロイド系成分)」と覚えておきましょう。

また、ピレスロイド系防虫剤はタンス用やクローゼット用、スプレーなどさまざまなタイプが展開されており、ドラッグストアで購入することが可能です。実際、以下はドラッグストアの防虫剤コーナーです。

ここには洋服タンス用や引き出し用、クローゼット用など、さまざまなタイプの防虫剤が陳列されています。服の保存方法や梱包方法に合わせて、適切な形状の防虫剤を選びましょう。

・引き出しや衣装ケース用の防虫剤

タンスや衣装ケースに入れている服には、シート状の置き型防虫剤を使用します。「引き出し・衣装ケース用」と記されている物を選びましょう。

防虫剤の使用個数はタンスや衣装ケースのサイズによって異なりますが、畳んだ服が並ぶ個数を目安に使うといいです。例えば以下は、私が使用している洋服タンスです。

このタンスには畳んだ服が2枚並びます。そのため、この場合だと1段につき2個の防虫剤を使用することになります。

このとき、防虫成分は上から下へと流れていきます。そのため引き出し用の防虫剤は重ねた衣服の上に置きましょう。そうすることで下に重ねた服まで防虫成分が行き渡り、虫の被害から守ることができます。

・洋服タンスやクローゼット

一方で洋服タンスやクローゼットにしまってある服には、吊り下げ型の防虫剤を使用します。吊り下げ型の防虫剤は、大きく分けて洋服タンス用とクローゼット用、ウォークインクローゼット用の3種類があります。

これらはどれも同じ成分・同じ形状ですが、効果の範囲が異なります。具体的にいうと、洋服タンス用の方が1枚あたりの値段が安価な分、クローゼット用よりも防虫効果の範囲が狭いです。同様に、ウォークインクローゼットよりもクローゼット用の方が効果範囲は狭いです。

このとき、引越し時に使用するハンガーボックスは横幅50cmほどであり、小さめの洋服タンスと同等のサイズです。そのためハンガーボックスで衣服を運ぶ場合、洋服タンス用の防虫剤を選びましょう。

なお引越し先の衣服収納スペースのサイズがわかるのであれば、新居のクローゼットに合った防虫剤を購入してもいいです。大きめの防虫剤をハンガーボックスに入れると内部の防虫成分は濃くなりますが、運搬時のみの一時的なものなので心配いりません。

・スプレータイプ

またピレスロイド系の防虫剤には、衣類収納のタイプに関わらず使用できるスプレータイプもあります。

スプレータイプの防虫剤は収納している衣服に薬剤を吹きかけるだけで防虫できるため、引き出しにもクローゼットにも使用できます。また置き型・吊るし型よりも安価で防虫することができます。

ただスプレー型の防虫剤だと、半年に一度の使用を忘れずに行わないと防虫効果が継続しません。引越し後に防虫剤の吹きかけを忘れてしまうと、衣類が虫に食われるリスクがあります。

これに対して置き型・吊るし型の防虫剤は、取り換え時期が防虫剤本体に表示されるため、衣類の防虫対策を継続しやすいです。

そのため防虫剤の吹きかけ時期を忘れてしまいそうな人は、置き型や吊るし方の防虫剤を選ぶのが無難です。

ピレスロイド系成分が不安な人は天然成分の防虫剤を選ぶ

このとき、中には防虫成分の体への影響が気になる人もいるでしょう。

確かに、殺虫剤や防虫剤などの中には人体に悪影響を及ぼすものがあります。衣服に使用する防虫剤だと、パラ製剤(パラジクロロベンゼン)が頭痛などの健康被害を起こしやすいです。

ただ、ピレスロイド系の防虫成分は虫への効果が高い一方でヒトを含む哺乳類や鳥類には安全性が高いことがわかっています。

人体に入ったピレスロイド系の防虫成分は速やかに分解され、短時間で体外へ排出されます。そのためピレスロイド系の防虫剤であれば、健康被害を心配する必要性はほとんどありません。

またピレスロイド系の防虫成分はペットの虫や魚などには悪影響を及ぼしますが、タンスやクローゼットを閉め切って、そこから離れた場所で飼育するのであれば問題ありません。

ただ合成成分の薬剤自体に抵抗があるのであれば、天然の防虫成分のみを使用した防虫剤もあります。例えば以下は、合成防虫成分を使用していない衣服用防虫剤です。

この製品は天然由来成分のみを使用しており、合成の防虫・殺虫成分を使用していません。天然の花やハーブなどから抽出した成分を使用しているため、フローラルやハーブの香りがあります。

防虫効果を考えると、ピレスロイド系の防虫剤を選ぶ方が高い効果を得られます。ただ天然由来の防虫成分であっても一定の防虫効果は得られるため、合成の防虫成分を避けたいのであれば、天然由来成分配合の防虫剤を選びましょう。

ピレスロイド系防虫剤を使用する際の注意点

なおピレスロイド系の防虫剤を使用する際には、2つ注意する点があります。一つ目は、前述のようにペットの虫や魚などの近くで使用しないことです。二つ目は、使用方法によっては金属製のボタンを変性させてしまう点です。

ピレスロイド系の防虫剤は、薬剤が空気中に揮発することで防虫効果を発揮します。このとき、高濃度の薬剤が銅や真鍮(しんちゅう)などと触れると、金属表面が変性して黒ずんでしまいます。

衣服ボタンの中には銅や真鍮などが使用されているケースがあります。このような衣服に高濃度のピレスロイド系の薬剤が触れると、ボタンが変色してしまうのです。

なお銅・真鍮のボタンであっても、薬剤の濃度が低ければ影響ありません。つまり、ピレスロイド系の防虫剤を銅・真鍮ボタンの近くに配置しなければ変色は起こりません。

実際、以下はピレスロイド系防虫剤の製品裏です。

ここには「金糸や銀糸、金属ボタンなどにも使用できる」と記されています。つまり銅・真鍮が含まれる衣服にも使用することは可能です。

このように、ピレスロイド系薬剤は金属を変性させる作用があるものの、薬剤が高濃度にならなければ影響ありません。金属製のボタンがある服にピレスロイド系防虫剤を使用する際には、衣服が直接触れないように配置しましょう。

引越し後にも防虫対策を継続する

なお、衣服の防虫対策が必要なのは梱包時だけではありません。引越し後も防虫対策を続ける必要があります。特に衣服をダンボールに荷造りした場合、すぐに着ない服をそのままダンボール内で保管しがちです。

ただ前述のように、ダンボールは害虫の格好の住処です。そのためダンボール内で衣服を保管しておくと、防虫剤の効果が切れた頃にダンボール内で服を食べる虫が大量発生するリスクがあります。

そのため、引越し後は速やかに荷解きしてダンボールを廃棄しましょう。また防虫剤に取り換えサインが出てきたら買い替えをして、防虫剤の使用を継続しましょう。そうすることで、引越し後も大切な衣服を虫害から守ることができます。

引越し前から防虫対策を行い、大切な衣服を衣類害虫から守る

引越しは衣類害虫が部屋に侵入しやすいタイミングです。そのため引越し時に衣類の防虫対策を行わないと、衣服が虫に食われてしまう可能性があります。大切な衣服を害虫から守りたいのであれば、梱包時に防虫対策を実施しましょう。

具体的には、衣類の防虫剤を衣服と一緒に梱包します。衣類の防虫剤にはいくつかの種類がありますが、ピレスロイド系の防虫剤が使用しやすいです。ピレスロイド系の防虫剤には置き型や吊るし型などのタイプがあるので、収納に合わせた形状を選びましょう。

また、衣類害虫はダンボールもエサ・住みかとします。そのため新居へ運ぶ衣服は、可能な限りタンスや衣装ケース、ハンガーボックスで運搬しましょう。

やむを得ずダンボールに荷造りした場合、引越し後すぐに荷解きしましょう。ダンボール内に衣服を詰めたままにすると、虫の被害に遭うリスクが高くなります。このようにして引越し時の衣服の防虫対策を進めましょう。


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