引越しは心身への負担が大きいイベントです。引越しの際には多くの作業・手続きが発生しますし、スケジュール通りにこなさなければ引越しを実現できなくなります。また、引越し後には新しい環境に慣れなければいけません。

このような引越しに伴うストレスは、うつ病の原因となることがあります。特に引越しを憂うつに感じている人だと、引越し後のうつ(引越しうつ)を発症するリスクが高いです。

それでは、引越しうつを予防する方法はあるのでしょうか? また引越しうつを発症してしまった場合、どのようにして克服すればいいのでしょうか?

ここでは、引越しうつの原因と予防法、克服方法について解説していきます。

引越しはうつ病のきっかけになる

引越しの際には、物件探しや業者の手配、荷造りなどの多くの作業が発生します。そのため引越し期間中は忙しく、心身を休ませる時間を取りにくいです。

また引越しすると、今までとは違う環境に身を置くことになります。部屋の構造や物の位置が違う部屋で暮らすことになりますし、買い物をする店や利用する駅、通う病院なども変える必要性が生じてきます。

このような多忙な状況や環境の変化などは、ストレスの原因となります。実際、引越し作業に前向きに楽しく取り組んでいる人であっても、自覚なしでストレス・疲労を溜めているケースは多いです。引越しに後ろ向きな人であれば、なおさら大きなストレスとなります。

ストレスが溜まると、気分の落ち込みやイライラなどが生じやすくなります。つまり、引越しは精神の落ち込み症状(いわゆる引越しブルー)の原因となるのです。

このとき、引越しによるストレスが過剰に生じたり長期化したりすると、日常生活に支障をきたすほどの精神症状や不眠などの症状が現れることがあります。このような状態は一般的に引越しうつと呼ばれ、場合によっては専門医の受診を推奨されることもあります。

うつ病の人が引越すと症状が悪化しやすくなる

また当然ながら、うつ病を発症させるだけの強いストレスは、うつ病の症状に悪い影響を及ぼします。つまり引越しはうつ病の原因になるだけでなく、うつ病の悪化原因にもなるのです。

一般的に、うつ病を発症している人は環境の変化を避けるべきだといわれています。前述のように、環境の変化はストレスの原因となるためです。そのため基本的には、うつ病を発症している人は無理に引越しをしないようにする必要があります。

なお、うつ病の改善には家族の協力が有効である場合があります。そのため家族のもとへの引越しであれば、例外的にうつ症状を発症していても避ける必要はありません。

・引越しせざるを得ないうつ病患者の対処法

ただ、うつ病を発症している人の中には引越しを避けられない人もいるでしょう。このような人が引越しによってうつ病を悪化させないためには、どのようにしたらいいのでしょうか?

まずは、引越しスケジュールに余裕を持たせることを意識するといいです。時間や体力などの余裕がなくなると、うつ症状が悪化しやすくなります。

また、うつ症状のある人は気分・気力に大きなムラを生じやすいため、予定通りに作業を進められないケースが多いです。そのためうつ症状が出ている人は一人で引越し作業を進めようとせず、可能なら家族や知人の手を積極的に借りることが大切です。

引越しうつになりやすいタイプと予防法

なお通常、引越しによる精神の落ち込みは時間の経過とともに軽くなっていきます。

ただ引越しを憂鬱に感じている人は、引越しブルーが悪化して引越しうつへ発展しやすいので注意が必要です。そのため、これから行う引越しを憂鬱に感じている人は、引越しうつを発症しないための予防策を取りましょう。

例えば新居に運ぶ荷物が多いと、荷造り・荷解きにかかる労力と時間が多くなります。その結果、引越しによるストレスが多くなり、引越しうつの発症につながります。そのため荷造り前に思い切った断捨離を実行し、引越し作業を減らして余裕を作りましょう。

また大手引越し業者には、荷造りや荷解き、掃除などを行ってくれるオプションサービスがあります。このようなサービスを利用すると、余裕をもって引越し作業を進められるため引越しうつの予防につながります。

引越し業者の荷造り・荷解きサービスは有料オプションです。ただ、引越しうつを発症してしまうと仕事できなくなったり病院に通ったりして経済的負担がかかります。

そのため引越し作業に取り組むのを憂鬱に感じているのであれば、「引越しうつを発症するより経済的メリットが大きい」と割り切って有料オプションサービスの利用を検討しましょう。

完璧主義な性格は引越しうつの大きな原因

なお引越しの場面に限らず、完璧主義な性格はうつ病の大きな原因となります。完璧主義の人は、達成するのが難しいほど多くの課題を自分に課してしまいがちなためです。

例えば、荷造り時のダンボールを細かくカテゴリー分けしたり、退去時の掃除にこだわったりする人は注意が必要です。これらはどちらも引越しをする上で大切なポイントではありますが、こだわりすぎると時間がいくらあっても足りなくなります。

また完璧主義だと、新居での収納にもこだわるケースが多いです。ただ旧居で利用していたすべての収納グッズを新居で活かすのは難しいです。引越し直後に荷物をきれいに収納するのは難しいのです。

このような状況で最初からすべてきれいに収納しようとすると、荷解きに多くの時間を要します。その結果、荷解きの完了が遅れて部屋が片付かず、強いストレスを感じやすいです。

さらに完璧主義の人は、多くの作業を自分一人でこなそうとします。これに加えて、一つでもうまくいかないことがあると、すべてがダメであるように感じます。完璧主義の人は自分で自分を追い込んでしまいやすいのです。

そのため普段から「〇〇しなければならない」「〇〇するべきだ」と考えがちな人は、「一人ですべての引越し作業を完璧に行おうとしない」ことを心がける必要があります。

例えば荷造りであれば、おおよそのカテゴリー分けができている場合、引越し後に優先順位をつけて荷解きできます。

また賃貸物件だと、入居者の退去後にプロの手によるクリーニングが入るのが一般的です。そのため、退去時の掃除は他人が不快にならない程度で問題ありません。

引越し後の収納作業も、一通りの荷解きが終わってからゆっくり取り組む方が失敗しにくいです。新居に最適な収納グッズを探す時間的余裕を作れますし、収納グッズを探しているうちに良い収納アイディアが浮かぶ可能性もあります。

実際に私は完璧主義の傾向があり、引越し時には強いストレスを感じていました。理想の状態にしようとするほど迷って時間がかかり、どれだけ時間があっても足りないように感じました。引越し期間中は常にイライラしていたので、なかなか眠れず周囲の人間にも迷惑をかけていました。

ただ現在では、ほとんどのことを「おおよそ良ければ問題ない」と割り切り、家族と協力して引越し作業を進めるようにしました。その結果、引越しでイライラすることがなくなり時間と気持ちに余裕ができたので、効率よく作業を終えられるようになりました。

そのため完璧主義の傾向にある人は、最初から完璧を目指さず「7割できれば上等」を目指して引越し作業を進めましょう。

環境が大きく変わる人は、事前対策で引越しうつを防ぐ

また引越しの際に、居住地以外の大きな環境の変化を伴う人は引越し後にうつ病を発症しやすいです。

例えば転勤や新入学などによって引越すと、居住地が変わるだけでなく新しい職場や学校などに慣れる必要性が生じます。また夫の転勤によって引越した妻は、慣れない土地で仕事を探したり地域住民と交流したりしなければなりません。

このような環境の大きな変化は、心身へ強いストレスを与えます。そのため引越しに大きな環境の変化を伴う人は、事前に対策を行うことが大切です。

例えば、引越す前に引越し先へ何度か足を運ぶと、引越し後の暮らしを具体的にイメージしやすくなります。遠方への引越しだと難しいですが、どこに何があるのか理解しておけば引越し後の環境変化によるストレスが軽減しやすくなります。

また引越し先の観光地や飲食店など、行きたい場所を下調べするのもいいでしょう。引越し先での楽しみを見つけると、引越し後不安感が生じにくくなり引越しうつの予防につながります。

このとき、引越すタイミングも工夫しましょう。夫の転勤による引越しを憂鬱に感じている妻は、無理に同じタイミングで引っ越そうとせず、合流を視野に入れて先に旦那だけ転勤先へ引越してもらっても問題ありません。

このように調整すると、「単身赴任を継続するか、または夫の転勤先へ引越すか」を熟考する時間的余裕が生まれます。また旦那が先に単身赴任すると、必然的に引越し先へ何度か足を運ぶことになります。その結果、見知らぬ土地への不安感が解消して引越しうつを予防しやすくなります。

引越し以外のイベントが重なっている人は、日程を調整して余裕を作る

また前述のように、多忙もストレスの大きな原因となります。特に引越しによる環境の変化に多忙が加わると、引越しうつの発症リスクが上がります。

例えば結婚は、人生で最大級のイベントです。大きな環境の変化が起こるとともに、結婚式の準備や婚姻手続きなど、やらなければならないことが山ほどあります。

これらを無理に同時進行しようとすると、時間と気持ちに余裕がなくなります。その結果、引越しがうつ病の引き金となってしまいやすいです。

また、引越しと転職活動などを並行させる場合も注意が必要です。転職活動では退職や転職先の選定、面接準備などのさまざまな作業・手続きが必要となります。そのため引越しと転職活動を並行させると、大きな環境の変化と多忙が重なってうつ病の発症リスクが高くなります。

そのため引越し以外のやることが多い人は、日程調整を行ってなるべく作業を並行させないようにしましょう。

例えば結婚式の日程が既に決定しているのであれば、まずはどちらかの家に半同棲し、結婚式後に完全同居を目指すという手段が考えられます。

また結婚に伴う諸手続きについては、扶養手続きなどのお金が絡むものを優先し、後回しにできるものについては、引越し後の住所変更手続きと一緒に行うと効率的です。

実際、私は結婚して半年後に引越しましたが、結婚後すぐ行った手続きは婚姻届けの提出と運転免許証・保険証の名義変更、印鑑の作成のみです。銀行などの名義変更は、引越し後の住所変更とまとめて行いました。

また、引越しと転職活動を並行しようとしている人は、可能な限り失業保険を活用し、引越しと転職活動のタイミングをずらすことも検討しましょう。

このようにして引越しに伴う作業のスケジュールをずらすと、時間・気持ちに余裕が生まれます。また環境の変化にゆっくり慣れていくことができるため、引越し後のうつ病発症を予防しやすくなります。

引越しうつを克服・改善する方法

それでは、すでに引越しうつを発症している人はどのようにしたら症状が軽くなるのでしょうか?

引越しうつに限らず、うつ症状が出ているときには無理をしないのが原則です。そのため引越し後に気分の落ち込みやイライラ、不眠などが継続しているのであれば、まずは休む時間を長く取りましょう。

また引越しうつは、新しい環境に慣れることで症状が軽くなりやすいです。そのため周辺地域を散歩したり買い物スポットを開拓したりなどすると、徐々に症状が治まっていきやすいです。また散歩などで日の光を浴びると、うつ症状そのものが改善しやすくなります。

孤独感を解消すると、うつ症状が軽減しやすい

また引越し後に孤独感を覚えている人は、孤独感を解消することで引越しうつが改善しやすくなります。例えば前述のように、旦那の転勤で引越した主婦は知り合いのいない土地での生活に孤独感を覚えやすいです。

また子育て中の主婦だと、生活の中に占める子育ての割合がかなり大きいです。そのため、子育ての悩みや話題を共有できる人がいないと強い孤独感を生じます。

このような孤独感は、うつ病の大きな原因となります。そのため引越し後の孤独感が強い人は、引越しが落ち着いたら何らかのコミュニティに属することを検討しましょう。

例えば短時間でもパートに出れば、仕事場で新しい人間関係を構築できます。また好きなスポーツがあるのであれば、地域のスポーツサークルなどに参加するといいでしょう。

子供が小さいのであれば、地域の子育てセンターや子育て支援施設などを利用すると、同じ悩みを抱えたママや専門スタッフに話を聞いてもらうことができます。

・友人作りが苦手な人は、地域を探索しながらゆっくり慣れていく

このとき、中には新しい人間関係の構築に時間がかかったりストレスを覚えたりするタイプの人もいるでしょう。このような人は、引越し前の地域で仲が良かった人と継続して連絡を取ったり、一人で周辺地域を探索しながらゆっくり新しい人間関係を構築したりするといいです。

例えば私は、旦那の転勤で幼児2人と一緒に家族で引越しをしました。引越し先には知り合いがいなかったため旦那以外と会話することがなく、引越し後1ヶ月ほどで強い孤独感を覚えるようになり、不眠や落ち込みなどのうつ症状が出てきました。

ただ私は新しい人間関係の構築に強いストレスを感じるタイプであったため、無理して子育てセンターなどに行くことはしませんでした。

その代わりに新居地域の観光地や有名なお店など、行きたいところを探して積極的に出かけるようにしました。また引越し前に仲が良かったママ友と連絡を取り合い、何気ない会話をする機会を意識して持つようにしました。

そうしているうちに子供の通う幼稚園の先生などとコミュニケーションを取る機会が自然と増え、憂うつな状態が改善していきました。また1日に数時間のパートに出ることで新しい人間関係を構築することができ、生活にメリハリが出て前向きに暮らせるようになりました。

このように、引越し後の孤独感によってうつ病を発症している人は、あなたに合った方法で孤独感の解消を試みるといいです。

新しい環境下への不安感が強い人は、不安の原因を自覚して対処する

また引越し後にうつ病を発症している人の中には、「新しい環境に対する漠然とした不安」が原因となっているケースがあります。

例えば新居を購入した人は、住宅ローンや周辺住民との人間関係などに関して不安を覚えやすいです。また結婚による引越しでは、パートナーとの生活に漠然とした不安を持っているケースが多いです。

ただ、新居の購入や結婚などは、一般的に楽しく幸せなイベントとされています。そのため新居購入や結婚などによって引越す人の中には、自分が何に対して不安に思っているかを把握できていなかったり、不安な気持ちに蓋をしてしまっていたりするケースが多いです。

このような漠然とした不安は、知らない間に精神をむしばんでいきます。その結果、「幸せなはずなのに気分が落ち込む」などのうつ症状が出てきます。

そのため新しい環境下への引越しでうつ症状が出ている人は、まず「自分が何に対して不安に思っているか」を自覚しましょう。その上で、不安に思っている事柄への対処方法を練ることが大切です。

例えば経済的な面を不安に感じているのであれば、就職や転職などを視野に入れて求人の下調べをしたり、就職・転職に有利な資格取得を目指したりすることで不安感が緩和しやすくなります。

また結婚後の生活に関しての不安感は、あなた一人で抱えていても解決しない問題がほとんどです。そのためパートナーに不安を打ち明け、問題を共有していきましょう。

そして周辺住民との人間関係も、あなた自身の力だけで解決できるとは限らない事柄です。良識的な人に恵まれるケースがある一方で、非常識な人がいることもあるためです。そのため引越し後の人間関係に不安を覚えているのであれば、無理に周辺住民全員と仲良くしようせず、一定の距離を保った付き合いを心がけるといいです。

どのようなケースであっても新しい環境下への引越しでうつ症状が出ている場合は、まずは不安に思っている内容を自覚しましょう。その後、それに対しての対処法を考えるようにしましょう。

引越しうつはタイプ別に予防・対処する

引越しは、うつ病のきっかけとなるほど心身にストレスのかかりやすいイベントです。

特に引越しに対して後ろ向きな気持ちをもっている人だと、引越し後にうつ病(引越しうつ)を発症しやすくなります。そのため引越しを憂うつに感じているのであれば、引越しうつを発症しないように予防策を練る必要があります。

このとき、中には引越しうつになりやすいタイプの人がいます。そのため引越しうつになりやすい人は、あなたに合った対策を取りましょう。場合によっては、引越し業者に荷造り・荷解きをすべて丸投げするプランがいいかもしれません。

また、すでに引越しうつを発症してしまっている人は、うつ症状の原因を知ることで克服・改善しやすくなります。そのため、まずは自分の症状・状況を把握し、原因となっている事柄に対処していきましょう。


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